カラカタカタ・・・ウィーン・・・・
プリンターからはきだされた紙にはその男の"値段"と"姿形"、そして"level:6"と。
"level:6"というのは隠語だ。
"level:1"は危害を加えろ、"level:2"は情報を盗め、"level:3"は阻害しろ、
"level:4"は護衛しろ、"level:5"は亡き者に、
そして"level:6"はけして悟られないように、自然死に見せかけ殺せという指令だ。
男は載ってはいけないBlacklistに載ってしまった。
このBlacklistに載った男を始末するのは"賞金稼ぎ"だ。
この"賞金稼ぎ"の "組織"は日本には1つのみ。
警察も介入してこない。
なにしろこのBlacklistを作っているのはほかでもない、警察なのだから。
しかし、すべての警察官がこのBlacklistの存在を知っているわけではない。
知っているのはごく僅かな限られた人のみ。
だがこれだけは言っておこう。
"組織"のBlacklistに載ったら最期。
警察も助けてはくれないということを。
虚無の鋼 序章
パタン。
無駄に大きく、威圧的なドアが開けられた。
プレートには"社長室"と。
「ふう、やっと帰れるな。ん?なんだ電気がつかないじゃないか。まったく・・・。」
ぶつぶつと言っていた男は、社長室の奥に大きく構えるデスクに暗闇の中向かった。
デスクに書類をしまい鍵を掛け、横のクローゼットに向かう。
クローゼットから鞄を取り出そうとした男の視界の端になにか炎らしきのもが映った。
その炎はとても小さいものだったが、暗闇と化したこの部屋には随分と明るいものだった。
「だ、誰だ!?」
男は当然この部屋には自分しか居ないと思っていたので驚き、
ライターで煙草に火を点けた姿の見えぬ主を問うた。
「・・・・・・」
何も応えない者に男は焦れた。
「どこから入ったっ?誰だ貴様は!」
男が問うても何も語ることなく無言で男に近づいて来る。
「ち、近づくな!」
男は姿の見えぬ人を恐れた。
煙草の先の小さな赤い火で辛うじて見えるのはぴくりともとも動かぬ口元だけ。
その者の口元から吐き出される煙を見て初めて意識した。
なにかとても甘い匂いがする、と。
そう気付いた瞬間男はその場に崩れ落ちた。
もう二度とこの男の目が開かれることはないだろう。
「よし、終了!」
部屋の電球をはめてやっとこの社長室に明かりが戻る。
「っていうかこれ、もうちょっとかっこよくできないのか?
配線いじるとか、ブレーカー落とすとかさぁ。
電球外すだけなんて、なんていうか芸がないっていうかさぁ・・・」
ぐちぐち文句を垂れつつ軍手を脱いだ、右頬に小さな傷をもつ男。
「うるさい、ブツクサ文句をいうな。
後で調べられても証拠がでないようにするにはそれが1番だろうが。
今回・・トシはそれしか仕事がないんだからそれくらいなにも言わずにやれよ」
部屋に篭っていた甘ったるい空気をすべて換気し終えて窓を閉め、
鼻から下を覆っていたマスクを外し、眼鏡を掛けた男は言う。
「だからこそだよ!・・・アスカ。オレはもっとやり甲斐のある仕事をしたいの。
こんな地味臭いのじゃあなくてさぁ」
軍手とマスクを鞄にしまいながらトシとよばれた男はそう答えた。
「そんなのは上層部のほうに言ってくれ。・・先輩、そっちは終わりましたか?」
アスカはトシとのくだらない会話を中断し、後ろで作業をしている男に話を振った。
男はペンライトみたいなもので、倒れている男の首元に光を当てていたが、
終わったのか立ち上がって2人を振り返った。
因みに、その光というのは目には見えないもので、
組織にしか読み取る事の出来ない特殊なものである。
つまりその光を読み取る事で誰が任務を遂行したかを知ることができるという仕組みだ。
その男の首元に刻まれたのは"B−92"。これが・・“先輩”のナンバーだ。
「・・・ああ。隼(トシ)、飛鳥(アスカ)出るぞ」
その言葉を聞いて隼が大きく反応する。
「やった。やっと帰れるゼ。肖(ショウ)、今何時?」
「・・・4時10分だ」
「げ?まじ?オレ今日単語テストあんだよなぁ」
隼の小さな独り言を飛鳥は聞き逃さない。
「どううせまた何もやってないんだろ」
「当然!」
やっと外に出で、大きく伸びをしていた隼の頭を、ポカっと叩いた。
「いばるな!」
「ってぇ〜。叩くなよな。なんだよ、アスカだって元々オレに期待して無いだろーが」
「当たり前」
「おい。言い切るなよなぁ。ちぇっ。あ、日の出じゃん」
闇夜の終わりを告げる眩しい朝日が、ビルとビルの狭い隙間から射し込んで来る。
「・・・あと4時間もしたら学校・・・だな」
眩しそうに目を細め、手を掲げながら飛鳥が小さくつぶやく。
「げぇ。まじめなんもやってないんだって。・・・休むかな」
なまじ冗談では済まなそうなことを言った隼にすかさずツッコミが入る。
「何いってんの。お前」
「だってさぁ、単語テストだぜ?めんど〜」
「だからこそだろ。小テストで少しは稼いどけって」
「稼ぐったって絶対点数稼げないしぃ。行くだけ無駄?テストの日くらい休もうぜぇー?」
「テストだから行くんだって。ねぇ、先輩」
「テストだから行かないんだって。なぁ?肖」
2人の後ろを会話に加わる事もなく、ただ黙々と歩いていた肖に話題が振られる。
顔は前を見据え、目だけを伏せていた肖がゆっくり目をあげた。
「・・・・・・テストが有る無しにかかわらず行くべきではないのか?」
「「・・・・・・・・・・・・」」
これぞまさしく正論だった。
「・・・確かにそうだよなぁ」
「さすが、先輩!」
「しゃあねーな。肖に免じて学校に行くか!」
「こらっ!偉そうな事言うなっ!」
またポカっと叩かれた。
「先輩は今日この後なにかあるんですか?」
「・・・夜に仕事が入っている」
「夜かぁ・・・いいなぁ。夜まで寝てられんじゃん」
「授業中どうせ寝るんだろ」
「もち!」
「はぁ・・・。後でどうなっても知らないぞ?あっ。先輩こっちでしたよね?」
「・・・ああ。」
「お、肖はそっちだっけ?じゃあ今日はこれで!」
「じゃあ先輩お疲れさまでした」
「・・・また」
人気のない大通りを朝日を背に3人は、日常に戻るために歩き始めた。