虚無の鋼     第1話

「・・・・・・問3、14番。前にでて」
「え、あ、はい」
生徒はノート片手に前に出て、黒板に答えを記す。
「・・・・正解。席に戻って」
生徒は席に戻り思わずため息1つ。
「ふう〜。びびったぜ」
「あの先生って何考えてるか、わかんねえよな」
「そうそう!無駄話とか一切しないし。はやく元の先生にもどんないかな〜」
「退院いつだっけ?」
「さぁ?なんか突然事故ったとかいって。
でも新しく校外から先生呼んだってことは結構長引くんじゃねぇ?」
「げろー。はやく退院しろよ。こんな得体の知れない先公やってらんねーよ」
「かなり辛気臭いよな。前髪とかかなりながいし。片目ずっと包帯まいたままだし」
「ほんとだよ。でもなんだか知らないけど女子には人気だよな」
「まじかよ。意味不明だな。あんなののドコがいいんだ?」
「なんだかんだ言って若いからじゃねーの?背だけは無駄に高いし」
「っわけわかんねぇ。んで?名前なんってたっけ?少野?しょうや庄谷?」
「んー?・・・しょうじ東海林?」
「あぁ、それだそれ。んでさぁ・・」
キーンコーン・・・
「・・今日はここまで。日直。」
「きりーつ、礼。」



ピロピロピロ
「お。・・・久しぶりだな」
「なに、だれから?」
「仕事のだよ」
「ふーん?バイトやってたんだ?」
「まあね」
「生徒会と両立してんの?すごいなぁ。なに、もしかして家計が困ってるとか?」
「いや、そんなんじゃなくてさ」
「飛鳥はまじめだもんな。まぁ、バイトはやっておいて損はなし!」


タイトルなし、本文なしのメール。
しかし、どこからのメールかわかれば飛鳥には十分それで事足りる。
飛鳥は携帯を閉じ、急用だと役員に告げ、足早に学校を後にした。






ジャジャン。ジャ、ジャーン
「はいはい、どちらさんっと。」
「おい、隼!メールなんて見てないで部活いくぞ」
「あー・・・、ワリ。今日休むわ」
「何、急用?」
「まあ、そんなもん」
「そっか。・・・そしたらまた明日な」
「おう!じゃあな!」
久しぶりの空メール。
前の仕事から実に2ヶ月ぶりで、すっかり日常生活を満喫していた隼にとって、現実を思い出させる知らせであった。






「ただいま〜。」
「おかえり。」
「あれ?もう帰ってたん?」
「うん。先輩ももう来てるよ。」
ここは隼と飛鳥が共同生活をおくっているマンションの一室。
空メールは仕事依頼を示すものであって、
同時にその日の18:00丁度に、セールスマンを装った指令者が来る事を意味する。
「まじで?おおっ!久しぶりだな!」
「・・・・ああ」
「ほら、トシも早く座って。もう6時になる」
「はいはい」


1分の狂いもなく訪れた黒いスーツを着込んだ男は、鞄を開き書類を取り出す。
「ううん、では。早速今回の仕事内容を話そう。
いつもの様にこの部屋に書類等は残していかないので心して――」
「わかってるって。んで、今回の仕事のlevelは?」
男は少しむっとしたが自分の仕事を忠実にこなした。
「level:4。名前はみ三藤直弥(みふじ なおや)、東都大学付属高校2年生。期間は――」
最初、聞いているのかいないのかさえわからない無関心な態度を示していた肖が眉を顰め口を開いた。
「どういうことだ」
普段は変に間をあけて喋る肖がいきなり喋りだした事に、
隼と飛鳥は驚き壁によしかかって立っていた肖を振り返った。
男はまたも話を中断されて眉を寄せていたが、ぱらぱらと書類を見、
その中の1枚を読み、納得がいったという様な顔をして肖を見て言った。
「ふむ。君はこの仕事をチームとしてではなく"B−92"としてやっていたのか。
・・・そうか。しかし君も感じているはずだ。この任務は1人では困難だという事を。
さらにいうなら今回の君の役柄上尚更」
「・・・どういうことですか?」
隼と飛鳥は訳がわからず男に質問をする。
「?君たちは彼がもう1つ別口に1人で任務をこなしている事を知らなかったのかい・・・?」
お互いに顔を見合わせ、肖を振り返る。
「まあいい。その事については後でじっくり話し合ってくれ。先ほどの続きを読み上げる。
期間は10日間から長くて2ヶ月。"B−92"はすでにもう行なっているが、
"東海林 岬(はざま)"という名の数学教師として、
"E−78"は"佐々原 栄樹"いう転校生として東都大学付属高校に行き任務を行なって欲しい。」
1人名前のあがらなかった飛鳥が、口を開いた。
「おれは?」
「"E−79"はパソコン等を駆使して1日の行動パターン及び常に居場所把握に努めて欲しい。」
「解りました」
「よろしい。あとこれは"E−78"にだ」
男は大きな紙袋に入っていた真っ白い長方形の箱を隼に手渡した。
「オレ?・・・・ああ。制服」
箱の中に入っていたのは綺麗にたたまれた若草色の制服。
「なにか質問は?」
「ないです」
「ならば私はこれで失礼する」







男がいなくなったリビングは暫しの間沈黙の時が流れた。
最初に口を開いたのは飛鳥だった。
「・・・・・。先輩が一人での仕事を始めたのはいつですか?」
「・・・・・・最初はずっと一人でやっていた」
「前の人たちと組む前ですか?」
「・・・そうだ」
肖はオレ達と組む前に別の2人と組んでいた時期があるのは知っている。
・・・・もちろんその前は知らないが。
「そう・・・ですか。・・・・・よかった。おれ達との仕事のレベルが低くて別口でやり始めたのかと思っちゃいました」
飛鳥は苦笑を浮かべそう答えた。
「3つかぁ・・・」
「トシ?」
「ん?いや、オレ達と肖のランク差の話」
隼と飛鳥は"E"。
肖は"B"。
たった3つだけの差だがその1つ1つが大きな壁となって立ち塞がる。
AからEまでの各アルファベットには100人ずつ居り、数字は若ければ若いほどいい。
"E"というのは最低ランクだ。
まず学生と言う名の未成年がこの組織にいること事態が異例なのだ。
ただ今回のように年齢の制限のある場所に入る必要も生じるので雇われているといったところだ。
ランクが上がる事なんてまず滅多にないから2人と肖の差は平衡状態だ。
縮まらない。
たまにふと隼は感じる事がある。
(肖は今の仕事に満足してるのか?肖だけだったらもっと仕事もスムーズに行くはずだ・・・。それに。何故 "B"の肖が"E"のオレ達とと組んだんだ?)
3人で組むことになったのは肖が持ちかけた話らしいと聞きかじった隼からしたら疑問だらけだ。
(なぜ面識のないオレ達と?オレ達が組むことになったのはいつだった・・・・?)
疑問は尽きることなく渦巻いていく・・・。