オレンジ・ゲーム 1
あたしの大好きなあいつには、大好きなかわい子ちゃんがいる。
口が裂けても言えないあたしの「好き」には一生気付かないで、あいつは今日もへらへら笑ってる。
「葉ー那っ」
「おう、やるかっ?」
「じゃーんけーん・・・」
・・・・・・・・・・・。
「ぬぁーーーーーー!!!」
「はっはっは。今日も行って来てくれたまえ、葉柴くん」
「〜〜〜〜〜〜〜〜っ」
「あ、100%オレンジで☆」
「うるせー分かってんよ!!」
ガラっ
葉柴は捨て台詞を吐くと、勢いよく教室のドアを開けて出て行った。
我がクラス名物の“ジュージャン”。
ジャンケンで負けた方が一階の売店でジュースを買ってくるという、単純かつプチ屈辱ゲーム。
葉柴葵、ただ今一年と一ヶ月の負け記録更新中の快進撃。
こんだけ負け続けてんのに懲りもせず、「男の意地だ」とか何とか言って
「葉那ー!葉那葉那聞いて!」
戻ってくるなりあたしの希望通りのジュース片手に大声で呼ばれた。
んなデカイ声で呼ばなくても聞きますから。
あんたの話ならいくらでも。
なんて言えない。
可愛くないわ葉那ちゃん。
「下で麻倉(あさくら)さんと喋っちゃったさ!」
出た。
葉柴’sラブリーちゃん“麻倉さん”。
目がキラキラしてますよ。
なんてアホ面。
「よかったね〜。何話したの?」
あたし的には全然よくないですけど。
全然聞きたくないですけど。
聞いてオーラ大放出なもんで。
「梓月(しづき)に・・・。あ、梓月〜」
え〜?どっか行っちゃったよ。
あ。梓月くんに何か渡してる。
あ、戻ってきた。
「梓月にチャリ鍵渡しといてって」
めっちゃ笑顔。
え〜〜。使われただけじゃん。
とか思ってみたり。
知ってます。
麻倉祷李(いのり)ちゃんはそんな子じゃないって。
知ってます。
ただ梓月くんが困ると思って葉柴に頼んだんだって。
ついでに「チャリ鍵」なんて言いません。
葉柴’sラブリー祷李ちゃんとさっきから出てくる梓月くん。
我が校自慢の双子の兄妹。とっても仲良し美男美女。
そりゃ有名人。そりゃ学校外でもモテモテ。
葉柴の敵も盛りだくさん。
毎日毎日あいつのラブリーちゃん話を聞くあたし。
全然よくないけど「よかったね」って言うあたし。
あんたにはどう映ってんの?
なんて乙女チックな切ない考え事してたらいつの間にやら放課後です。
「葉ー那、帰ーろっ☆」
のん気にbなんか付けちゃって。
「いーよっ☆」
同じリズムで☆返し。
このアホさが好き。
何も考えてなさそうなアホな笑顔が好き。
どうしようもないアホな君が好き。
全部“アホ”って入るけど好き。
「おーおーお前ら毎日一緒に帰りやがって!」
同じクラスの横尾くん。
「うっせー。二人で秘密会議なんだよ!」
「はー?オレも混ぜろ!議題は何だ!」
同じクラスの時田くん。
秘密会議なんてしてませんから。家がお隣さんなだけで。
この二人、葉柴に負けず劣らずなかなかのアホ。
「じゃあね」と部活に向かう二人。
彼ら爽やかサッカー部員。
横尾くん、長い廊下の前方で振り返り一言。
「早く別れろ!!」
横でうひゃひゃと笑う時田くん。
いやいや。
別れるも何も始まってもいませんからあたし達。
「付き合ってるわけねーじゃん!!」
力みすぎて若干裏返り気味。
どんだけ否定すんだよ。