青き蝶の砦 第4話
「戦争っ!!?」
教室中に響きわたる声に、先生も生徒もその声の主に注目した。。
「ええ、機械対人間のですよ。
まぁ、今はもうみなさん感想文を打ってもらってる訳なんですけれどもね。
それで?今更何に何に対しての発言なのか是非教えてほしいですね」
にこにこと口元だけに微笑みを浮かべていた教師の、言葉の語尾がチャイムと重なった。
「・・・。あとで職員室にいらしてください。――はい。今日の授業はここまで。号令」
きり〜つ、礼。
教師に続いて、生徒達も自分のクラスに戻るためぞろぞろと教室を後にした。
「おっまえ、ばかだなぁ」
「"戦争っ!?"とかいっちゃって。なんの夢みてたんだよ。昨日のゲームの続きか?」
「ちゃうわ。・・・せやけど、わからん・・・。なんの夢見てたんやろか・・・。」
「いや、俺達に聞かれてもわかんねーよ。」
なんやっけ…なんか、ビルがあって・・・それで…誰だっけ?え〜っと・・・
「あれ?お前、ピアスなんてつけてたっけ?」
「先週あけたんだ。いいだろぉ」
・・・ピアス?
そうだ、赤いピアスしてたやん。
そんでもって祷霞だ、祷霞。
そうだ思い出した。・・・戦争・・・、あれどうなったんだろう・・・。
人間が勝ったんかなぁ、それとも機械やろか?
まあ、どっちにしても皮肉な話やわ。
人間が自分で造ったものと命を賭けて戦争なんて・・・。
もし人間が負けたらそれこそお笑いやっちゅうねん。
・・・あの続きが知りたい。
いや、夢なんやけどな。気になるやんけ。
神様、どうかいまの夢の続きを・・・。
「戦争だって?!しかも人間対機械だあ?
オレココ着てからまだ1週間たってないんだけど・・・これうまく記事にできたら出世できるかも!?」
先輩の大声の独り言で晴日は目を覚ました。
(・・・戦争・・・なにが?なんのはなし?)
目は覚めてもまだ頭の中までは醒めていないらしい。
もう1人の先輩もこの声で起きたらしく、これを読め!とパソコンをこっちに向けられる。
「"史上初、人間VS機械"・・・なに…?どういう・・・・・・ことなん?」
「――逃げれるのか・・・?」
晴日と一緒に起きた先輩がまず最初にいったのはこれ。
「・・・いや、4つのゲートはすべて誤作動を起こして開かないそうだ。
・・・おおかたアーティフィシャルの仕出かしだろうな」
「っどうすればいいんだよ!オレは嫌だぞ!こんな土地で今の時代、戦争で死ぬなんて!」
もともと今回の取材は新人だけで組まされたものだ。
新人にこんな遠征費用をかけるなんてよく考えてみればおかしい。
戦争になる予兆でもあったのかもしれない。
よく戦地近辺からのリポートなどはあるが、今回は人工的な島だ。
島全体が壊滅することだってありえる。
ましてやこのドーム型の島は、出入り口を封鎖してしまえば出る事は皆無に等しい。
だから犠牲になってもたいした損害じゃない新人に?
ゾクッとなにか冷たいものが晴日の背中を駆け抜ける。
こんな見ず知らずの土地で死ぬのか?
オレ達に何も関係ない戦争で?
嫌や。
絶対嫌や。
これからやっちゅうに機械なんかに殺されてたまるか。
・・・・・・機械?
・・・祷霞・・・。
祷霞はどうするんだろう・・・。
晴日は居てもたってもいられなくてまだ争っている先輩たちを残し部屋を飛び出しインターホンを押した。
心臓がバクバクいっとる。
いきなりドアが開いて撃たれたら・・・。
いや、祷霞はそんなことするやつじゃない。
なんでそないなこといえんの?
まだ知り合ってたった1週間やん。
しばらくしても祷霞は出ない。
晴日はもう2、3回呼び鈴を押してみたがやはり状況は変わらない。
時刻はまだ早朝であるので仕事ではないだろうと晴日は思いつつ、変わらない状況に苛立った。
その時ふと、
なにか直感めいたものが晴日の頭をかすった。
――そうや。
あそこにおるかもしれへん。
思いあったたら即行動。それがオレのモットーや。
こんな戦場を走り抜けるのは晴日くらいであろう。
すぐそばで激しい銃撃戦が繰り広げられてる。
ついこのあいだのんきに観光していた場所とはとても思えない。
晴日は、鼓膜がビリビリする初めて経験する戦場に恐怖しながらも駆け抜ける。
爆発で一瞬足元が宙に浮いても止まらない。
そんなことには構っていられない。
何故晴日は自分がここまで必死に走るのか理解できずにいたが、走る事はやめなかった。
祷霞はこの場所にいた。
ここがC.P.かと疑うほどの広い空き地。
「・・・祷霞、ここに、居たんか」
散歩にはちょうどいい距離であって、全速力で走る距離ではない。
晴日は息も絶え絶えで、口開いた。
祷霞は膝を抱えてたままの姿勢で振り返り、いつもとなんら変わりない笑顔で言った。
「どうしたんですか?こんな朝早くから…」
よく考えてみたら晴日は昨日寝たままの格好だ。
着替えてから来ればよかったと後悔してももう遅い。
「・・・今日のNEWS・・・見た?」
「?・・・ああ。見ましたよ?」
「・・・・・・」
なんていえばいいんやろか。
いきなり戦争の話に切り出しても祷霞にオレは何を聞きたいんやろ。
まさか、『機械は人間なんて恨んでませんよ。ただのガセネタですよ。』とでも戦争が始まっているのに、いって欲しい訳やないし・・・。
「戦争・・・」
晴日は祷霞のその言葉に弾かれた様に顔を上げた。
「についてですか?」
「・・・祷霞はやっぱり戦うん?」
ゆっくり息をはき出す。
「そう・・・ですね。ケラディー博士は僕を造ってくれた研究所でもあろし・・・」
祷霞のそう言った顔が晴日には何故か不自然に感じて・・・。
「祷霞・・・。まさか、知ってるのか?…なにか、オレたちが知らない何かを・・・そう、例えば、どっちが勝つか・・・とか」
知っているはずがない。だってまだ始まって間もない戦争なのだから。
なのに晴日は何故か聞いてしまった。
「・・・とりあえず座ったらどうです?」
「祷霞!」
目をふせて口元だけで笑いをつくった祷霞。
なぜかそれが諦めの表情にも見えて晴日は眉をよせる。
「知っている・・・というより今までのことを資料とした結果、ということです。」
「そんなんどっちでもええ。・・・どっちが勝つん」
とたん、祷霞の顔から笑いが消え、無表情になる。
「そんなの知ってどうするつもりです?」
「・・・祷霞?」
いつもとちがう祷霞の表情に晴日は戸惑った。
「もし僕が、人間が勝つといったらあなたは安心してこの戦争のことを記事に。
アーティフィシャルが勝つといったらここから急いで逃げ出すのですか?」
「!そんなことせん!オレは、オレは知りたいんや。
この戦争の結果じゃのうてオレと祷霞が生き残れる方法を。
・・・戦争は人が沢山死ぬ。でも、オレは祷霞と一緒に生き残りたいんや。
・・・オレは自分のことしか考えてへんのや」
あ、あと先輩2人もな、と付け足して言っておく。
祷霞は1回、瞳を閉じそしてオレを見据えて静かに笑いながら言った。
「・・・・・もしあなたが『すべての人を救いたい。』なんていっていたら僕は偽善的過ぎて失望していたかもしれない。
『自分が生き残りたい』なんて当たり前のことなんです」
どうやら晴日の考えなしの答えは祷霞にとって満足できる答えだったらしい。
祷霞はもう1度瞳を閉じそしてゆっくり、語るように言う。
「・・・・・この戦争に勝つのは人間でも、アーティフィシャルでもない。
・・・・・・・あえて言うなら勝つのは神だ」
予想もしなかった答えに晴日は呆けた顔をした。
「人間にけして負けないように造られた機械がアーティフィシャル。
・・・戦争で他国に負けぬようにと。だから絶対に人間は僕たちアーティフィシャルには勝てない。」
・・・それは知ってるんや。
ここへ来て次の日にアーティフィシャルのある研究室に行ったから。
そこでオレははっきりと聞いたから。
アーティフィシャルは戦争用に創られたのがはじまりやったと。
「・・・・だけど所詮僕たちを創ったのは人間だから。
人間を総て殺して僕たちが生きていく手段はない。
・・・だから全てが息絶える。・・・・・つまり、神の勝利」
彼は胸に架けていた十字のアクセサリーを、晴日に見せるように握った。
晴日は何も言えなかった。
戦争の結果を知っていて尚彼は戦いに参加するというのだろうか。
胸がいっぱいになった。
言葉に詰まる。
・・・・またどこからともなくと爆発音が聞こえ風が通り過ぎる。
「・・・・・・でも、アーティフィシャルが人間に刃向かわない様かなり厳重にプログラムを施されていたはずなんだ。・・・・つまり、」
「後ろで糸ひいているヤツがいるっちゅうこっちゃな」
祷霞が頷く。
「黒幕は誰かは分からんのか?」
祷霞は下に目線を落とす。
「・・・・はい」