青き蝶の砦 第5話
「・・・そろそろでしょうか。かれこれ戦争が勃発してから2週間もたちましたし。
これ以上長くアイツの下で働くなんて耐えがたいものがありますしね」
AZAMIcorporationの地下8階。
ここまでは戦争の被害はこない。
随分前から計画してきた。
長かった・・・。もういつから計画していたかすら忘れるほどだ。
1度、前にたった1度彼を殺そうと試みた。
しかし、だめだった。
彼は機械になっていた後だったから。
場所によっては致命傷となり修復不可能なのだが、その致命傷の場所からたった2p外した。
暗殺なんかではだめだった。
もっと、確実にあの子を抹殺する方法を・・・。
"事故"?
"放火"?
いや、そんなのではだめだ。
もっと、確実性があるものでなければ。
"戦争"・・・?
そうだ、それしかない。
戦争で罪の無い人々が?
そんなの僕には関係ない。
それに"罪の無い人"?
"罪"とはなんだ?
人を殺すことは罪で、人に嘘をつくことは罪ではないのか?
人間は絶対なにか犯すものだ。罪のないヤツなんていない。
人間なんてものは、いつか死ぬんだ。
それが少しばかり早まっただけじゃないか。
僕はあの子さえ消えればそれでいい。
さあ、終止符をうつ時が来た。
「・・・祷霞さん」
「?どうしたんですか?そんな暗い顔してしまって・・・。
あ、まさかこの戦争で身内を・・・・・?」
「あ、いえ。・・・実は。―――っ!やはり今回の戦争の黒幕は社長だったんです!」
「!」
「・・・少し思い当たる所があって調べてみたんです・・・。
そしたら、軍の指令官との密会が発覚して・・・。」
「・・・・やはり父が・・・」
「はい、そして明々後日また密会するらしくて・・・。祷霞さんのお知り合いに居ましたよね?
新聞記者の方。それを記事にしてなんとか今回の戦争を止めたいのです」
「わかりました。・・・・・・連絡をつけてみます」
「・・・お願いします。密会の場所などはここに書いてありますので」
「はい。あ、でももし連絡がつかなかったら・・・」
「でしたら、私から連絡しておきましょう」
「・・?はい、じゃあお願いします」
ピーピーピー・・・突然、機械音があたり一面に響きわたる。
爆音や破裂音が轟く中、甲高い電子音は一際際立って聞こえた。
「おわっ!びびったぁ。なんや、この音」
急いで鞄の中をあさる。
こんな戦場では些細な事1つで命取りになる。
晴日はどちらの味方に付くことなく、この戦場を写真に収めていた。
そう遠くない未来に二度と同じ過ちをしないで欲しいから。
この戦争は自分なんかの力じゃ止められないけれど。
もう繰り返してほしくないから。
「・・・。これのこと忘れてたわ。なになに?」
おもむろに鞄の奥深くにあった無線機を取り出す。
この無線機は戦場で唯一使える連絡方法であるが、
映像または文字を相手に一方的に送りつける機能と、それを受ける機能のみ搭載しており、
形は片手にすっぽり収まるくらいのモノだ。
「"明々後日正午、南エリアの東3番地にて待つ"」
「・・・東3番地ってどこやねん」
「なになに、何処だって?」
「先輩」
「あ〜・・・あそこじゃないか?あの―――」
また、遠くから激しい銃声が聞こえた。
この・・・・、この戦争を止められるのは誰だろう。
ここは戦争中であっても変わらない。
前見たときとなんらかわりなくただただ目の前いっぱいに草原が広がっていた。
「・・・・ここでなにすればいいんやろか」
時間通りここに来たのはいいものの、人っ子一人みあたらない。
「晴日!」
振り返るとそこにいたのは・・・
「祷霞」
「・・・久しぶり」
「おう。つーかお前なんでここにおんねん」
「シュウ・・あ、いえ秘書から連絡がきて・・・」
「ああ、じゃあオレもソイツからやろか?・・・で、その秘書はどこにおるん?」
「さぁ・・・。あっ!来た」
祷霞の目線の先を見てみると独り、人が立っているのがわかる。
「やっと来たか。自分から呼び出しておいて・・・」
「・・ちがう、秘書じゃない。・・・・・・父さんだ」
「お前の親父さん?なんだってこんなところに?」
「・・・ここで密会するって・・」
「?誰とや」
「・・・・軍の指令官だって」
「軍の指令官?なんでそんなお偉いさんと?」
「聞いてないの?・・・・こないだ話したよね、黒幕がいるって・・それ、・・・・・・父さんなんだ」
祷霞は目を伏せ言った。
「あ?」
「・・・だから、父さんが、今回の戦争を起こしたんだ・・・」
「・・・マジか?なんでお前そんなん・・・」
「シュウが・・・あ、もう1人の秘書の名前です、が調べたんだ、そしたら、父さんが・・・」
「なんだってそんなことを・・・」
「僕にもそんなことわからない。・・・父さんに直接聞いてみなきゃ!」
言うが早し、祷霞は人影めざし、走っていった。
「父さん!」
「祷霞?何故お前がこんなところに?」
「そんなのどうだっていい、父さんこそなんで戦争なんて馬鹿げた事を!」
「?戦争?なんのことだ。なにを言っているんだ」
「だってシュウから聞いたんだ!今日父さんと軍の指令官がここで密会するって!」
「密会?さっきからお前はなにをいっているんだ?」
「とぼけるな!」
「祷霞っ!ちょお落ち着けって」
ようやく追いついた晴日が祷霞の腕を掴んだ。
「だって、だって」
「この親父さん本当に何も知らなそうやないか」
「・・・私はただシュウに言われたとおりここに来ただけだが?」
「秘書に?あんたも秘書によばれたんか?」
父さんとはずっと仕事を一緒にやってきたから解る。
嘘をついてるか、ついてないかなんて。父さんが嘘をついてないならば・・・?
パァンッ
最初なんの音かわからなかった。
あまりにも・・・突然で。
それがなんの音かわかったのは父さんが倒れたあと。
その音は銃声だった。
そして撃ったのは・・・拳銃を握る手の甲に傷跡がある・・・・シュウだった。
「・・・まったく、余計な事をべらべらと。
やはり最後はシナリオ通りにはいきませんでしたね。
あなたの最期は祷霞さんが導いてあげるはずでしたのに」
何を言っているのかよくわからない、いや、理解しないように頭が拒否しているみたいだ。
頭の奥がジーンと痺れてきた。
なに?
今シュウはなんといったの?
父さんの"最期"は僕が・・・なんだって?
「折角、殺傷能力の高い銃を祷霞さんにプレゼントしたのに」
銃?ああ、もらった。
たしかこの戦争が始まる少し前になにかあったときのためにって。
いつも持ち歩いていなさいって。
今も、持ってる。
「まあ一発で殺すよりこうして確実に死ぬけれど、
急所を外して苦しんでいるところを見るのもいいですかね。」
父さんは、そういって嘲けわらう秘書をすごい剣幕で見上げる。
それこそ、人をも殺せそうな目で。
だけれど分かる。父さんはあと数分の命だって。
だって、顔色が真っ青だし息を吸うときヒュー・・ヒュー・・って音が聞こえる。
それにあのとめど無く流れる血。
あんな出血して、人間が助かる訳がない。
「・・・ど、どうして・・・・何故父さんをっ!?」
なにかの間違いであって欲しい。
だって、ずっと小さかった時からの少ない僕の理解者。
そんな彼が父さんを?!
「"何故"ですか。」
祷霞は首を縦に1度だけ頷く。
「だって父さんはあなたからみたって伯父じゃないですか!・・・そんな身内を・・」
「"身内"・・・ね。」
秘書が口元にわらいを含ませる。
「そうですね。たしかに身内ですよ。だって旦那様は私の父でもあるのですから」
「なっ?!」
「ねぇ、旦那様・・・いや、父さん?」
「・・・祷霞には、そのことを、黙っていろといったはずだが」
「おや、それは失礼しました、・・・父さん」
「だってシュウの父さんは僕が作られる前に死んだはずじゃあ・・・」
「・・・無駄口はそれくらいにしておきましょうか」
シュウが銃を構えた。
狙ったのは父さんの左胸。
「ああ、その前に一つ冥土の土産を差し上げましょう」
安全装置をはずしながらシュウは言う。
「先ほど奥様の入院されている病院は戦争に巻き込まれ、大破されました。
生存者はありません。ですから安心して、死んでください」
秘書は笑った。
実の父親に拳銃を向けながら。
バァンッ!
乾いた音があたりに響く。
そしてあとに残ったのは父の亡骸と祷霞の叫び声と秘書の笑い。
それだけ。
たった、それだけ。